そこは雪の止むことのない純白の街。 ようやく辿り着いた安息の地に、無数のきらめきが舞い降りる…
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雨は、涙の跡を隠し
2007-07-08 Sun 17:10

 
毎日大勢の人や車が行き交うその道は、今日に限って静かだった。

全ての音を消し去るように静かに降り注ぐ、冷たい雨。

優希:
うぅ~~…お、重いよぅ


今より幾分…いや随分小柄な背丈の優希は、小さな傘にその身を隠して必死に買い物袋を抱えていた。

優希:
勇気にも手伝ってもらえばよかったなぁ…


今更ぼやいても仕方ない、そう考え直した優希は再び歩き出した。



優希:
た、ただいまぁ~~


ようやく辿り着いた玄関で、疲れ切った声を上げる。
いつもならば母親が奥から現れて、努力を称えるか疲れを慰めてくれるかだが、何か様子がおかしかった。

言いつけ通り雨具を片付けて上がり、恐る恐る台所を覗き見る。

優希:
ママ…?


しかし返事はおろか、人の気配すら微塵もなかった。

優希:
勇気…?


自室に戻って弟を呼んでみるが、やはり居ない。

優希:
ぁぅ…ど、どこに行っちゃったんだろう…


優希の心が不安で満たされていく。

優希:
だ…だいじょうぶなんだもん…


誰に言った訳でもなく弱々しく宣言し、勢い良く腕を振ってダイニングへと下りていく。

いつの間にか日も暮れていたらしく、広い室内を常夜灯の儚い橙色がわずかに照らすのみだった。

優希:
だいじょうぶ…だいじょうぶ…


まるで呪文のように唱えながら進み、ようやく環状蛍光灯のスイッチひもに手が掛かる。

すると、

――プルルルルル!プルルルルル!

けたたましい音に驚いて手を引っ込めたのが幸いして、蛍光灯が白昼の輝きを呼び戻す。
そして、ほっと一息つくと音の主である電話を取るためにぱたぱたと走る。

優希:
も、もしもし?


優希の応対に、黙して語らない相手。

優希:
あの…どなたですか…?


気丈に問い掛けても、応答する気配は無い。

すると、

優希:
…もしかして、勇気?


何かに勘付いたように言い放った優希のひと言。
これに、ようやく声が返ってきた。

勇気:
あぁ…


優希:
ど、どうしたの?!心配したんだよ!?


勇気:
……


再び口を閉ざす勇気。
その様子を意に介さず、優希は続ける。

優希:
今どこに居るの?ひとりで帰ってこれる?


勇気:
もう…ダメだ…


優希:
ぇ……


勇気:
俺たちは、もうダメだよ…お姉ちゃん…


そのひと言で、優希は再び勘付いた。
受話器を持つ手から力が失われていく。

しかしこの時点で優希にはやる事ができていた。

優希:
勇気、今どこに居るの…?


その問い掛けに、勇気は隣町の病院の名を口にした。
 
 
降りしきる雨の中、優希は走った。

途中から傘も捨てた。

待っている人のために、早く着きたかったから。
 
 
走る事およそ半時間、ようやく総合病院の大きな建物が視界に入ってきた。
その正面入り口の所に、見知った人影を見つける。

優希:
勇気っ!


勇気:
…お姉ちゃん


恐らく勇気も同じ気持ちだったのだろう。
雨に打たれて全身ずぶ濡れの姿のまま、おぼつかない足取りで姉に歩み寄っていく。

優希:
ダメじゃない、ちゃんと濡れない所で待ってないと…


きゅっ、と優しく抱き寄せる。

背中の向こう側から聞こえてくる嗚咽。
それはかくも過酷な現実を呪い、そして同じ境遇に在る信頼する者の存在を喜ぶものだった。
 
 
 
 
それからの姉弟の生活たるや、惨たんたるものだった。

学校では親なし呼ばわりされ、来る日も来る日もいじめが繰り返された。

ゴシップ好きの中年女共が繰り広げる在らぬ噂が、ありもしない信憑性を伴って襲い掛かる事もあった。

それ故に地域一帯からすら、除け者扱いされる始末。

庇う者も無く、ただ二人で耐えた。
 
 
 
 
そして…

優希:
ママっ?!やだっ!!いやだぁっ!!
置いてかないで…行かないでぇぇっ!!!


勇気:
姉貴…そっと逝かせてやろう…


優希:
何で?!お母さん死んじゃうんだよ?!


外聞もなく、涙も鼻水すら垂れ流しながら叫ぶ優希に、勇気が言う。

勇気:
今まで俺達のために、血ヘド吐くような苦労をしてきたんだ。
もう、休ませてやろうよ……


そのひと言で、優希は叫ぶのも、すがりつくのも、泣く事さえ止めた。

無言の中、心拍数低下の警告音が鳴り響く。

何も出来ぬまま、何も言えぬまま、無機質な数字がどんどん小さくなっていく。
 
 
その時、けたたましい音が突如鳴り止んだ。

母親:
ゆき、ゆう…


優希:!!!
勇気:!!!

奇跡が起こった。

母親とはかくも偉大なものかと、感心を禁じ得ない。
双子のために、命の断崖から舞い戻ってきたのだ。

場が騒然となる中、母親は双子に必死に伝える。

母親:
雪の…舞い降る…街、に…いきな、さい…


優希:
ママっ!!?


勇気:
母さん!!それは何所なんだ?!


母親:
伯父さ、んに…聞けば…全部…わか、る…か……ら…………


求めるように伸ばされた左腕は、力なく掛け布団の上に落ちる。

同時に双子と一緒の鳶色の瞳は、そっと閉じられた。
 
 
 
それを最期に、再び息を吹き返すことは無かった。
 
 
 
 
数日後。

葬儀も終わり静寂を取り戻した家の中、差し込む夕陽を頼りに各々の持ち物を整理する双子の姿があった。

勇気:
姉貴、準備はもう大丈夫か?


優希:
うん…


大丈夫かと聞かれるまでも無く、二人が鞄に詰めたもの以外何も無い。
家財道具の類は、伯父の手配した引っ越し業者が搬出済みだった。

勇気:
そろそろ行こう。電車の時間に間に合わなくなる。


優希:
…うん。

 
 
勇気に引きずられるように外に出た優希。

振り返れば、夕暮れが朱色に染め上げる"我が家だった"ものがあった。

優希はぽつりとつぶやいた。

優希:
バイバイ、思い出さん……バイバイ、ママ……


すると背後から、

勇気:
何っつー辛気臭い顔してんだよ。
そんなんじゃあ何時まで経っても母さんは天国行けねぇぞ。


ぽんと頭を叩き、勇気が追い越していった。

その後姿を、優希は

優希:
…うんっ、そうだねっ!


頬に伝う雫を力強く拭って、追いかけるのだった。
 
 
 
そして双子はあらかじめ受け取っていた切符で、特急電車に乗り込んだ。
一路、母親が託した 「雪の舞い降る街」 へ――
 
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