そこは雪の止むことのない純白の街。 ようやく辿り着いた安息の地に、無数のきらめきが舞い降りる…
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ささめ雪の降る頃に(後編)
2007-08-24 Fri 08:18

その日の朝は珍しく雪も止み、雲も晴れて青空が広がっていた。

真っ白な大地が太陽に照らされて、銀色のきらめきを放つ。

普通の土地で暮らす者にとって、ため息さえ出るほどの美しい景色だろう。

しかし、「雪の舞い降る街」では、晴れの日はこう呼ばれているのだ。

「空色の嵐が襲い来る日」と。



優希:
ささらちゃん、勇気、おはよぉ~


ささら:
おはようございます、ゆきちゃん


勇気:
姉貴遅ぇぞ、もう朝飯食ったからな


優希:
ふぇぇ?!
そ、そんなに遅いかなぁ…


ささら:
そんな事はありませんよ
今朝は私が早く起きてしまったので…


優希:
あぅあぅ…ご、ごめんねぇ…


ささら:
気になさらないで下さい
あまりに幸せそうに眠っていたので起こすに起こせなくて…


勇気:
そーいう時は遠慮なく豪快に揺すって構わないぞ?


優希:
うぅ~~…勇気いじわるさんだよぉ…


こんなやり取りで始まる朝は、今日で3回目を数える。

その間、これと言って騒ぎが起こるでもなく、至って平穏な日々を送っていた。

ささら:
それにしても、こちらも晴れる事があるのですね


勇気:
そりゃそうだ
さて、洗濯物外に干すから手伝ってくれ


ささら:
わかりました


優希:
わわ、私もやるよぉ~~


勇気:
姉貴はまず飯食って、その後台所片付けな


優希:
ぅ…分かったよ~


勇気:
ささらはまず物干しを拭いといてくれ
それなりに汚れてるはずだし、ほれ雑巾


ささら:
っと、わかりました


投げてよこした雑巾を器用に片手でキャッチしたささらが微笑み返した。

それを見て勇気は家の中に戻り、洗濯機から洗い立ての洗濯物を引きずり出す。

二人分が三人分になった程度では容量的にはそんなに変わりないのだが、

勇気:
女物の服に下着が全体の67%だもんな…


まるで腫れ物に触れるようなぎこちない手つきでひとつひとつ払って伸ばしていく。

とはいえ勇気のこと、それは作業でしかなく…

勇気:
あ~~…かったりぃ…


女性物の肌着であろうと何であろうと、ちゃっちゃと片付けていくだけなのであった。
 
 
 
そして、洗濯物が全てカゴに移った、その時。

ささら:
な、何ですかあなた方は…


外から聞こえるささらの声。

よく聞けば、聞き慣れない男たちの声も混じっていた。

勇気:
ちっ…!


洗濯カゴを持ったままダッシュで外に飛び出す勇気。

すると、

ささら:
い、いやですっ!
あんな所には戻りません!


厚手のコートに身を包んだ大男が3人がささらを取り囲んでおり、ささらは大声を張って抵抗している。

勇気はそのまま近づいていき、言った。

勇気:
オッサン達、人ン家で何やってんだ?


???:
君はこの家の者かな?


勇気:
あぁ、そうだが


その後ろで微かにドアの開く音がした。

チラリと見ると、優希がこちらを窺っている。

???:
失礼した、私はこういう者だ


そう言って差し出す手帳には、桜とも菊ともつかない派手なロゴと「警視庁」の文字。

勇気はすぐさま背中でカゴを左手に持ち替えて、右手を後ろに回したまま優希にサインを流す。

「友野に連絡して伯父さんを呼べ」

直後、再びの微かな音と共にドアが閉じられた。

警官:
君もニュースで見たかもしれないが、この子が先日から行方不明となっていて、捜索願いが出ているのだ


勇気:
そうなのか?


老警官:
先程ここで見かけたので、説得をしているのだよ
突然押し掛けてすまんね


勇気:
それで?
その女の子が行方不明になった理由って何なんだ?


警官:
それは君が知る必要は無い
それとも…捜査の邪魔をしようというのか?


勇気:
いぃや、邪魔立てするつもりは全く無いさ
ただ…


警官:
ただ?


勇気:
家主の許可を取っても無いのに押し掛けたらまずいだろう?
例え警察であってもな


冷徹な瞳が、警官を見据える。

少なからず勇気が怒りを覚えているという事の表れだ。

警官:
貴様…公務執行妨が…


言いかけた若い巡査を、老いた警官が押し止める。

老警官:
これは失礼しました
では、敷地外までお連れしてから説得させて頂きますよ


勇気:
何処まで敷地か、分かってるとは思うけどな


老警官:
この丘の中腹をぐるりと一周する形で柵があったね
それより麓側へ行けばいいのだろう?


勇気:
ご名答


老警官:
なるほど、それでは失礼するよ
一時的とはいえ、捜査協力に感謝する


老警官は敬礼して、若い警官は一瞥をくれて勇気の前から立ち去ろうとする。

一方のささらは、信じられないという表情のまま無言で左腕を引かれ連れて行かれる。

勇気を見るその瞳は、悲しみとも憎しみともつかない悲痛な感情を湛えていた。

その視線を、勇気は真正面から受け止める。
 
 
 
すると、

――キキィーーーー!!

とても公用車には見えない赤色の軽自動車が飛び込んできて、急停車した。

伯父:
これこれ若いの、そんなに慌てて何処に行かれるおつもりか?


運転席から颯爽と現れたのは、町長の伯父だった。

警官:
む…何だじいさん
貴様も邪魔をする気か!?


度重なる想定外の事態に、ついにキレた警官が激昂する。

しかし、老警官の反応は真逆だった。

老警官:
こ、こらっ!!
邪魔をしているのはお前のほうだ!!
即刻こちらの方に謝罪するんだ!!


顔を真っ青にして後ずさりながらも、部下である若い警官を怒鳴りつける。

警官:
巡査長…コイツは…


老警官:
口を慎め!!
警視長殿、この者若いゆえ飛んだご無礼を…


警官:
け、警視長…!!?
はっ!!大変失礼致しましたっ!!


若い警官も事の重大性をようやく理解したらしく、最敬礼で謝罪した。

伯父:
ほっほっほ、もう過去の話じゃよ
お若いのも顔を上げておくれ、堅苦しいのは苦手でな


老警官:
はっ、厚い恩情、有難き幸せ…


警官:
し、しかし…
警視長とこのガ…子供たちと、如何様な関係が…


伯父:
そこの男の子は私の甥っこじゃ
そちらの女の子は姪っ子の友人じゃな


老警官:
左様でございましたか…
しかし女の子の方は捜索願いが出されておりまして…


伯父:
今一度、確認された方がいいと思いますぞ?


警官:
……ぇ?


老警官:
それは…どの様な…


伯父:
この子の捜索願いは、君らがここに来る前に取り下げられておる
警察官たるもの、常に情報へのアンテナを張っておかねばならんぞ


これには勇気もささらも驚いた。

勇気:
伯父さん、それって本当なのか?


伯父:
あぁ本当だとも
女の子さんお疲れになったろう、お家にお入りなさい


ささら:
は、はい


言われたささらは、今だキツネにつままれた様な顔で勇気たちの家に戻っていく。

伯父:
さて、私から話す事はもうないのじゃが…
一体何時までそこでぼーっと突っ立っとるつもりかな?


老警官:
ははっ、直ぐに所轄に戻り、任務にあたります所存でございます


伯父:
それが良い
さぁ、早く戻りなさい


老警官:
お心遣い有難うございます…
こら、行くぞ!


老警官は若い警官を引きずる様にして坂道を下っていくのだった。
 
 
 
警官たちの姿が見えなくなった事を確認して、勇気が伯父に頭を下げる。

勇気:
伯父さんありがとう、助かったよ


勇気の後頭部をそっと撫でながら、伯父は言った。

伯父:
何、大したことはしとらんよ


勇気:
しっかし、さすが警視庁で3番目の位だなぁ
あそこまで効果があるとは思わなかった


伯父:
警察は縦社会じゃからの
権力に滅法弱い性質を持っておるのじゃ


勇気:
違いない


伯父:
それにしても驚いたわぃ
優希ちゃんから「友達が誘拐されそうになっている」と聞いたからのぉ


勇気:
……姉貴、そんな事言ったのか・・・


頭を押さえてうな垂れる。

その様子を微笑みながら見ていた伯父は、ゆっくりとした動作で車に乗り込んで言った。

伯父:
さてさて、ワシも公務に戻る事にするよ
女の子さんのケアは頼んだよ?


勇気:
ま、俺じゃなくて姉貴がもうやってるだろうけど…


伯父:
ふぉっふぉっふぉ、そうじゃのぅ


勇気:
って、伯父さんそこは否定してくれよ…


伯父:
緊急出動したんじゃから、これくらいの役得はないとのぅ
ふぉっふぉっふぉっふぉ


勇気:
ったく…


不満げな顔をする勇気に笑顔のまま手を振って、伯父も来た道を戻っていった。

勇気:
ま、こんなモンかな
あとは…


見遣るのは、ささらが消えていった勝手口のドア。

勇気は洗濯カゴを持ち直して歩き出した。
 
 
 
時は少し戻って、ささらが家の中に戻った頃。

パタン、とドアが閉まる音に気付いて、優希が駆けてくる。

優希:
ささらちゃん!
大丈夫?ひどい事されなかった?


ささら:
ええ、暴力を振るわれたりはされていないので大丈夫です


優希:
よ、よかったぁ~…


ホッと胸をなでおろす優希。

それとは対照的に、足の震えが止まらないささら。

優希:
…ささらちゃん?


ささら:
でも…ココロに、酷い暴力を…受けました……


優希:
あぅ…そう、だったんだ…


優希の台詞を待つようにして、ささらが床にへたり込む。

まるで寒さに震えているかの如く、肩まで震わせていた。

それを押さえつけるように腕で自身を抱きしめる。

ささら:
私…もう、どうしていいか…分かりません…
私の中の私が…『麻績ささら』が…死んでしまいそうで…


歯の根も合わなくなるほど震えるささらを、優希は上から覆いかぶさる様にしてそっと抱きしめた。

優希:
ささらちゃんの事を心の底から嫌っている人なんて、どこにも居ないよ


ささら:
……


優希:
みんなね、ささらちゃんに帰ってきて欲しいから、つい頑張りすぎちゃったんだよ


ささら:
そんなの…迷惑です…


優希:
そうだよね…今のささらちゃんにとってはすごく迷惑な事かもしれない…
でもね、それだけささらちゃんがみんなに好かれて、愛されてる証拠だって、私は思うんだ


ささら:
……


俯いていた顔を上げ、ささらは優希を見る。

優希:
本当に嫌ってたら探しもしてくれないはずだよ…
私たちがそうだったようにね


ささら:
そ、そんな…っ


優希:
でもささらちゃんは探そうとしてくれる人が居る
それはすごくありがたい事だと思うの


この時、ささらは思った。

『私は、何て幸せなんだろう』、と。

こんなにも自分の事を考えてくれて、こんなにも愛してくれる。

それが親兄弟でもなく、幼馴染として、親友として今まで付き合ってくれた子なのだ。

自然と、涙がこぼれていた。

すると、抱きしめる力がほんの少しだけ強まった。

優希:
ささらちゃん、今は泣いていいんだよ…
ココロに溜まったモノ、全部流しちゃおうね…


ささら:
…っ!


優希:
私や勇気の前では、強くなくていいから…ね?


慈愛に満ちた笑顔は、ささらの心をを突き動かすには十分過ぎた。

ささら:
……ぐすっ…ゆ、ゆきちゃ…えぐ……ゆきちゃぁん…っ


静かに、でも激しく、その名が表す通りささらは優希にすがって涙する。

それを真正面から受け止めてなお笑みを絶やさず、優希はささらを抱き止めて背中に手を添えた。

まるでそれは、赤ん坊を寝かしつける母親のようでもあった。
 
 
 
勇気:
(やれやれ…本当に出る幕がなさそうだな…)


リビングのドアを開けようとして固まっていた勇気は、気付かれないように静かに立ち去った。

そして、しわくちゃのまま乾いてしまい再洗濯を余儀なくされた洗濯モノを放り込んで、ふと思う。

勇気:
(俺たちは、本当にささらのためになる事をしたんだろうか…)


庇って慰める事も、ささらの事を思えば然るべきだろう。

しかしそれでいいのだろうか。

逆境をはね返す力を持つ事も必要なのではないだろうか。

友を思えばこそ、強くあってほしいと願う。

とはいえ、すでに穏和路線を取った勇気たちに選択肢は残されていなかった。

そもそも優希が強硬路線など許すはずがない、そう思ったのだった。

勇気:
(ま、ささらの事だ…どうにかなるだろう)


そう考えると、少し気が楽になった気がした。
 
 
 
すっかり日も暮れて、白を赤く染める夕日が眩しい時間帯。

ささら:
ほら、こうやって包丁を入れてお湯をかけると…


優希:
わぁぁ…すごいすごいっ、お花が咲いたみたいだよぉ


ささら:
ソースも絡まりやすくなるのでおすすめですよ


優希:
うんっ、今度私も試してみようっと♪


3日も見ていると今までもずっと見ていたような錯覚に陥る。

ダイニングテーブルで読書する勇気にはそう感じられた。

しかし、ささらはここの住人ではない。

ちゃんと帰るべき場所もあるのだ。

どう切り出すべきか、勇気は答えを見出せずにいた。

すると、

優希:
勇気~、おかずできたから持っていって~


のん気な優希の声がキッチンから聞こえてくる。

勇気:
あいよ


気の抜けた返事をしてキッチンに行くと、相変わらず豪勢な料理が大皿に乗せられていた。

勇気:
しっかしまあこれだけの見栄えで、材料費300円行かないってのはすごいな…


ささら:
材料を無駄なくきちんと使ってあげれば、これくらい大したことはありませんよ


勇気:
そんなもんかねぇ


とそこに、ぽふっと突っ込んでくる優希。

優希:
勇気ぃ~、狭いんだから早く持っていってよねっ


その手にはご飯茶碗と汁碗を載せたお盆があり、ともすれば全部ひっくり返してしまいそうだった。

勇気:
わ、分かった、分かったから押さないでくれ…


最悪の事態は免れねばならぬ、そう思った勇気は素直に従った。

そしてテーブルに料理が出揃う。

勇気:
そんじゃ食べるかぁ
いただきま…


ささら:
ちょっといいですか?


いつものように手を合わせようとする勇気を押し止めるようにして、ささらが身を乗り出した。

優希:
ほぇ…どうしたの?


ささら:
あのですね…えっと…


しばし口篭るささらだったが、意を決したように二人に向き直って言った。

ささら:
私、明日家に帰ろうと思います


優希:
え…!?


勇気:
ほぅ、その理由は?


ささら:
ゆきちゃんが仰った通り、私は待ってくれている人の所に戻らなければいけないと思うのです


勇気:
ふむ…


ささら:
今はお二人に優しくしてもらってますけど…何時までもこうして居られる訳ではありません
私も私なりにもっと頑張って、もっと皆さんに可愛がってもらえるようにならなければいけないのです


優希:
ささらちゃん…


ささら:
私を酷い目に遭わせた方々とお会いするのは、まだ腰が引ける思いです…
ですけど、そういう人にも認められる自分になってこそだと思うのです


決意の瞳を目の当たりにして、勇気は後ろ頭を掻きながら言う。

勇気:
相変わらず、ささらはすげぇなぁ…


ささら:
そ、そんな事は…


勇気:
そんな事があるんだって
自覚ねぇだろうけど、それってかなりすごい決心だぞ


ささら:
お二人に比べたら…私なんてまだまだで…


勇気:
んなこたぁねぇよ


ささら:
え…?


勇気:
たまたま付いてきた結果がこうだった…まあ平たく言えば親が死んだだけで、された事はささらと変わらん
俺たちはただ単純に逃げた、だがささらは戦おうとしている
その戦う姿勢を持てること自体が、俺たちの上を行っている証拠さ


ささら:
……


勇気:
まあ、疲れたらまた遊びに来いよ
そん時はお前の好きなカードゲーム、死ぬほどやらせてやるから


優希:
そうだよささらちゃんっ!
私たち、待ってるからね!


ささら:
ありがとう、ございます…


涙ぐむささらの頭をぐりぐりなでながら、勇気は宣言した。

勇気:
よーし、そうと決まればさっさと飯食ってパーっと遊ぶぞ!


優希:
さんせ~~~い♪


ささら:
え、でもお片付けが…


勇気:
んなの明日でいいって
水に浸けときゃこびりつきはしないだろ?


ささら:
そ、それは…そうですけど…


勇気:
ほれ見ろ、万事オッケーだ
さーて何して遊ぶか~?


優希:
あ、えっとね~私は…


勇気:
姉貴は後だ、まずはささらのリクエストだろ


優希:
えへへ、そうでしたぁ…
ささらちゃん、何して遊ぼっかぁ~


ささら:
えっと、それじゃあですね…


話題と共に食事の箸も進む。

こうして、3人の夜は更けていくのであった。
 
 
 
そして翌日。

ささらは別れ際までずっと笑顔だった。

特急電車が入線して強い風が当たっても、眉一つひそめる事はしなかった。

発車のベルが鳴り響く中、車中から手を振る様子も幸せそうだった。

帰った後に待ち受ける過酷な日々を思い描かぬ事はないだろう。

しかし、その苦悩を微塵も見せることなく、ささらは双子の元を離れていったのだった。

優希:
ささらちゃん…大丈夫、かな…


電車が去り、静けさを取り戻したホームでぽつりと呟く優希。

勇気:
大丈夫だろ、ささらは


素っ気ない返答。

しかし、

優希:
うん…そうだね…


勇気に甘えるように抱きつく。

優希にとって、たったひとりの家族の言葉は、安心を得るに十分過ぎるほどだった。

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