そこは雪の止むことのない純白の街。 ようやく辿り着いた安息の地に、無数のきらめきが舞い降りる…
ROサイトマスコット
スポンサーサイト
-------- -- --:--
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

別窓 | スポンサー広告 | top↑
がんばりやさんの行進曲
2007-09-21 Fri 23:48

勇気:
むぅ…遅いな…


晩ご飯の仕度が終わった勇気が、エプロンを脱ぎ捨てながら呟く。

原因は優希の外出。

朝から大きな荷物を持って出掛けて行き、日が暮れた頃に帰ってくるという事が数日続いていた。

勇気:
それにしたって、今日は遅すぎないか…?


間もなく20時というところで、ここ数日では最も遅い。

勇気:
…まあ、そのうちひょっこり帰ってくるだろ


いかにも勇気らしい楽観的な意見が飛び出して、一人きりの食卓が始まった。




翌朝。

目覚ましが鳴る前に目の覚めた勇気が隣を見ると、いつの間にもぐりこんだのか優希の寝顔があった。

勇気:
(俺…そんな早寝したか…?)


記憶が正しければ、0時過ぎまでライトノベルを読んでいたはずだ。

それにいくら寝室に居るとはいえ、起きていたなら玄関が開いた事くらいは気付く。

勇気:
(…寝てるのを叩き起こしてまで聞く事じゃねぇしな)


優希に限ってやましい事はしていないだろう、そう思い直して勇気はベッドを抜け出すのだった。
 
 
 
勇気:
ふぁぁぁぁ~…眠ぃ~…


フライパンで目玉焼きを焼きながら大あくびをかます。

すると、同じく眠そうに目を擦りながら優希がリビングに姿を現した。

優希:
うぅ~…眠たいよぉ~…


勇気:
おはよ姉貴
昨日随分遅かったみたいだな


優希:
うん~…今一番頑張らないと…いけないから…


と言いながら椅子に腰掛けて、早速頭が前後に振れる。

勇気:
ほれ、これでも食べてシャキっとしろよ


焼き立ての目玉焼きとトーストを差し出しながら、ため息混じりに勇気が言う。

優希:
ふぁ~ぃ…


勇気:
パンなんだから、しっかり噛めよ?


優希:
うん~…わかってるよぉ~…


半分以上目を閉じた状態で、器用にトーストを頬張る優希。

勇気:
ほれ、髪の毛くっつくぞ


優希:
……


勇気:
姉貴…?


優希:
……くぅ…zzz


さらに器用に、食べながら寝るという離れ技をやってのけていた。

勇気:
おーい、いい加減目を覚ませ~


そう言いつつ優希の背後に回り、そのこめかみにこぶしを押し当ててぐりぐりと力を籠める。

いわゆる「ぐりぐり攻撃」だ。

優希:
はにゃぅっ?!
い、いたいイタイ痛い~っ!!


涙目で訴える優希に、最上級の笑顔で勇気は言った。

勇気:
姉貴、お、は、よっ


優希:
ぁ、ぇ、えと…お、おはよぉ~


勇気:
ホレ、今日も出かけるんだろ?
そろそろ急がないとヤバいぞ


言われて時計を見る優希。

直後、

優希:
うひゃぁっ!
も、もうこんな時間~~っ!


素っ頓狂な声を上げる。

勇気:
軽く食えるもの作っとくから、身支度して来いよ


優希:
うんっ、そうするっ!


大慌てで2階に駆けていった。

勇気:
やれやれ…


ため息をつきながら、勇気は自分が食べるはずだったトーストを半分に切り、レタスと目玉焼きを挟んだ。

それをラップで包んで、即席のサンドイッチの完成である。

勇気:
半熟に失敗してて正解だったらしいな…


すると、リビングのドアが勢いよく開け放たれる。

優希:
そ、それじゃあ行ってくるねっ


相変わらずの大荷物を持って、優希が姿を現した。

その出で立ちはおおよそ女の子らしくない、よれよれのトレーナーにだぼだぼのジーンズというものだった。

長い髪と胸の膨らみが無ければ男の子に間違われてもおかしくない。

勇気:
ほら、これ持ってけって


手提げ袋の空きスペースに、先ほどのサンドイッチを放り込む。

優希:
わぁ、ありがとぉ~


お礼もそこそこに、薄汚れたスニーカーをつっかけて飛び出していった。

勇気:
まあ……姉貴が着てたのが全部俺のだって事は、後で教えてやるか…


苦笑いを浮かべながら勇気はダイニングに戻っていった。
 
 
 
数時間後。

勇気:
ほぅ…これは…


掃除をしていた勇気は、ゴミ箱から見つけた物で大いに納得していた。

それは、紺色の布地の切れ端。

厚手で丈夫な物で、主にズボンやスカート、ジャケットなどに使われる事が多い。

もうひとつ手にしていたものは、糸で描かれる幾何学模様がそのまま生地になったもの。

物によっては1m当たり数万円もすると言われる「レース」だ。

勇気:
姉貴がこんな事を、ねぇ…


優希のトロい様子を知る勇気にとって、意外以外の何物でもなかった。

すると、

――ピ~ンポ~~ン

玄関の呼び鈴に促されてドアを開けた勇気が見たのは、ぐったりとした様子で背負われる優希だった。

勇気:
な…っ?! あ、姉貴っ!?


女友達:
作業をしてたら突然倒れちゃって…
お医者さんに見てもらったら疲れが溜まってたせいだろうって


勇気:
そうか…
悪かったな、坂道大変だったろ?


女友達:
平気だよ、ゆきちゃん軽いもん


優希を勇気に背負わせながら大柄な女の子が言う。

勇気:
まあそれにしても、介抱してくれてありがとな


女友達:
どういたしまして~
それよりもね、起きたら伝えてあげてくれない?


勇気:
「根を詰め過ぎるな」、だろ?


女友達:
さっすがぁ~、よく分かってるわね


勇気:
これでも弟だからな


女友達:
うふふ、そうね
それじゃ、アタシたちはこれで帰るから


勇気:
おう、またな


女友達:
お大事にね~


女の子たちの姿が見えなくなるまで見送ってドアを閉めた勇気は、すぐさま寝室に優希を寝かしつける。

そして、

勇気:
不器用なクセに変なところで頑張り屋なんだよなぁ…


優希が大事そうに抱えていたかばんを開けて、目的の物を取り出す。

勇気:
…こんな大掛かりなのをやってたのか


進行度としては工程全体の30%程度しかない。

しかも所々真っ直ぐ縫えずによれてしまっているところもある。

勇気:
2、3時間あれば上等だな


家庭用のミシンを持ち出し、勇気は早速作業に取り掛かるのだった。
 
 
 
翌朝。

優希:
ぅ……ぅ~ん……ぁ、あれ…私……?


ようやく目を覚ました優希は、昨日出掛けたままの格好であることに気付く。

優希:
わわ、お風呂にも入らないで寝ちゃったんだ…


しかし、よく思い返してみると、

優希:
って、あれれ? 私、確かお裁縫をやってて、それで…


そこから先の記憶が無い。

優希:
ぁぅ…またやっちゃったかなぁ…


しょんぼりしながら、窓の方を見遣る。

するとそこには光を遮る一着の洋服が掛かっていた。

優希:
あれは…


シルエットはどこかで見た事がある。

むしろ、毎日見ていて見飽きるほどだった。

慌ててベッドから降りて駆け寄ってみると、縫製もしっかりとした一着のメイドドレスだった。

優希:
まさか…っ


身近な人でこんな事が出来るのは1人しか居ない。

優希は階下へと下りていった。

リビングのドアを開けると、思った通り勇気がソファーで眠っていた。

その傍らには、メイドドレスを作り上げるために使ったのであろうミシンが置いてある。

優希:
勇気…ひどいよ…


思わず突いて出る言葉。

優希:
みんなと一緒に、頑張るって…約束、したのに…


涙が溢れて、雫となってこぼれ落ちる。

優希:
これじゃあ…私だけ…ズル、した…みたいだよぉ……


立っていられず、その場にぺたんと座り込んでしまった。

すると、

勇気:
姉貴ぃ…


寝起きのしゃがれた声で呼ぶ勇気を見ると、寝たまま腕だけ伸ばしてとある方向を指している。

その指の先には、大きな紙袋が1つ。

そっと近寄ってみると、紙袋の中には綺麗に折り畳まれた服が何着も入っていた。

勇気:
俺が、そんなヘマする訳ねぇだろ
ちゃんと人数分用意してあるさ


ようやく起き上がった勇気が頭を掻きながら説明する。

優希:
で、でもっ!
家にこんなに材料無かった…


勇気:
昨日姉貴が担ぎ込まれてきた後、全部預かったんだ
まさか5人分もやらされる事になるとは思わなかったけどな


優希:
そうだったんだ…


勇気:
俺の家庭科系のスキルはダテじゃないからな
アイツら喜んで預けていったぞ?


優希:
そっか…


今だぼーっと虚空を見つめる勇気に、優希は、

優希:
ごめんね…ありがとぅ……


後ろからそっと抱きついた。

勇気:
…この甘えん坊


優希:
いいんだもん…お姉ちゃんの、特権だもん…


幾度と無く交わされたやりとり。

それは、優希が勇気に言葉にならない想いを伝える手段でもあった。
 
 
 
それから数日後のこと。

勇気:
この辺だったかな…あーあったあった


勇気がやってきたのは市街地の真ん中にある大きな公園。

街のイベント会場として多くの催し物も開催される、憩いの場所である。

勇気:
んで、問題の姉貴は…と…


探すまでもなく、賑やかな場所で見覚えのある服を着た女の子たちが行き来しており、その中に優希の姿があった。

すると、

優希:
いらっしゃいませぇ~、「ぴゅあかふぇ」へようこそ~~


笑顔を湛えた優希が恭しく頭を垂れながら言った。

勇気:
ぐはっ…


優希:
あれれ?
勇気、どうしたの?


不思議そうに首を傾げる優希の頭を撫でながら、勇気がささやく。

勇気:
姉貴がちゃんと仕事してるか見に来たんだよ


優希:
ふぇぇ?!
ち、ちゃんとやってるよぉ~~っ


勇気:
はは、まあ冗談はこれくらいにして…
服似合ってるじゃん


優希:
そ、そうかなぁ…


突然褒められてはにかみながら、優希はくるりと回って見せた。

その姿に、勇気は顔を赤くしてつぶやく。

勇気:

姉貴の可愛さに服が追いつけてないがな…


優希:
ほぇ?
勇気何か言った?


勇気:
な、何でもねぇよっ!!
ほらっ、もう仕事に戻れよっ


優希:
あ、勇気照れてる~かわいい~~☆


勇気:
あーのーなぁーーーっ!


優希:
えへへ、仕返しだも~ん♪


笑顔のまま優希はフロアに戻っていくのだった。

勇気:
ったく…


派手にため息をつきながら髪を掻きあげる。

そして、

勇気:
可愛い自覚が無いってのも、考え物だな…


苦笑いを浮かべて、元気よく駆け回る後姿を目で追うのだった。

スポンサーサイト
別窓 | 双子のこと | コメント:0 | top↑
<<今夜月の輝く丘に | 雪の舞い降る街 | ささめ雪の降る頃に(後編)>>
この記事のコメント
top↑
コメントの投稿
 

管理者だけに閲覧
 

| 雪の舞い降る街 |
 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。