そこは雪の止むことのない純白の街。 ようやく辿り着いた安息の地に、無数のきらめきが舞い降りる…
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天使の放つ矢は何所へ行った?
2008-02-20 Wed 14:49

勇気:
まあ、こんな事になるんじゃないかとは思ってたがな…


台所で呆然と立ち尽くす。

それもそのはずで、有名メーカーの真っ赤な包装紙で包まれた板状のものがダンボールまるまる1箱残っているのだ。

これでも減った方で、ゴミ箱に収まり切らない包装紙のなれの果てが、透明ビニールの袋を埋め尽くしていた。

勇気:
こんなにどうするんだよ…


何度目か分からない溜め息をつきながら、勇気は腕組みして思案するのだった。



事の発端は、先週にさかのぼる。

優希:
ねえ、勇気…


もじもじと俯き、上目遣いに勇気を見る優希。

勇気:
どうした姉貴?
昼飯足りなくて腹減ったか?


優希:
うぅ…ちがうもんっ


勇気:
じゃあどうしたんだよ
そんなにかしこまってさ


優希:
あのね……ぜ、絶対に怒らないでね?


勇気:
…事と次第によっては、な


その反応を肯定と受け取った優希は、表情をやや明るくして言った。

優希:
んとね…お小遣い、貸してくれないかな…?


勇気:
はっ?!


優希:
あぅぅ…怒らないって言ったのにぃ…


勇気:
そりゃ驚くだろ…いきなり金貸せって言われたら…


優希:
だ、だってぇ~


その後の優希の話をまとめるとこうなる。

この日は2月13日。
翌日には世の男女が心ときめかせるバレンタインデーがやってくる。
優希とその友達数人が話し合った結果、出た結論が「手作りチョコを作る」事だった。
そのためには当然材料となるチョコレートが必要になる。

つまり、材料費がほしいということなのだ。

勇気:
まあ仕方ねぇな…


そう言いながら勇気は、生活費を入れている財布から福澤諭吉を1人抜き取る。

勇気:
ほら、これで足りるだろ
友達の分も一緒に買ってこいよ


優希:
え…でも…


勇気:
今月は食費とかかなりケチったから多少余ってンだ
これくらいなら大丈夫だって


優希:
そ、そうなんだ…


勇気:
それにどうせ姉貴の事だから、山のように失敗するだろうしな


優希:
ふぇぇ?!
そ、それはひどいよぅ…


目の端に涙を溜めて抗議する優希に紙幣を押し付けて、勇気は言う。

勇気:
ほら行ってこいよ
友達連中待たせてるんだろ?


優希:
あ、うん…


どこか納得のいかない表情で受け取り、優希はリビングを出る。

そして、ドアの影から顔だけ出して、

優希:
勇気、ありがとうね


小さい声で言って駆けていった。



そして数時間後。

――ワイワイ、ガヤガヤ…

台所の方からは女の子たちが楽しそうに雑談している声とともに、料理器具の擦れる金属音が聞こえてくる。

どうやら最大の出資者である優希の家に、友達が全員やって来たようだ。

その声を2階の自室で聞きながら、勇気は宿題を片付けるべくシャーペンを走らせるのだが、

勇気:
…こんな騒がしくて、集中なんか出来るわけネェよ


普段が「賑やか」とはかけ離れた家なだけに、集中はあっさりと切れていた。

勇気:
仕方ない、友野さんトコにやっかいになるか…


ひとりつぶやいて、勇気は必要なものをかばんに詰め、家を出た。

台所は「男子禁制」なので、優希にはメモをドアの下に滑り込ませて伝えた。



友野:
ははは、それは災難だったねぇ


突然の訪問にも笑顔で応え、ホットコーヒーを差し出しながら友野は言った。

勇気:
笑い事じゃないですよ
姉貴だって宿題出されてるのに…


友野:
まあ良いんじゃないかな?
それに、勇気君はそれを見越してわざわざウチまで来たんだろう?


すっかりお見通しな友野の言葉に、勇気は顔を赤くして答える。

勇気:
姉貴に恥かかせる訳には行かないですからね


友野:
良い心がけだよ


満足げに微笑む友野に、反撃とばかりに勇気が問い掛ける。

勇気:
それで、友野さんは仕事進んでるんですか?


友野:
ん~…まあ、ぼちぼち…かな


勇気:
何ですかそれは


友野:
ここ数日アイデアに詰まっててね
練ってあった分を書ききってそこで止まってるんだよねぇ


勇気:
なんだ、どっちもどっちじゃないですか


友野:
だから僕にとっては助かってるんだけどね


勇気:
は?


友野:
こうやって、話し相手がやってきてくれたんだ
思考を整理するには会話が一番だからね


勇気:
いや…俺は宿題をしに…


友野:
それは僕も手伝うからさっさと終わらせてしまおう
その後でた~っぷり付き合ってもらうよ


勇気:
ま、マジっすか…


友野:
さあ、始めようか
時間がもったいないからねぇ


勇気:
は、ははは…


この時勇気は思った。

「ここも地雷原だったか」、と。



そして、7時間後。

日もとっぷりと暮れ、辺りはすっかり暗くなっていた。
ふと時計を見れば、すでに夜の11時を回っている。

友野:
おっ!!
ネタ降ってキターーー!!


それまで延々と続いていた会話を突如打ち切ってパソコンに向かう友野を、ゲンナリ顔で見つめる勇気の姿があった。

勇気:
(やっと終わったか…)


すっかり冷め切って、もともとアイスだったようにも感じるコーヒーをあおり、勇気は荷物をまとめた。

勇気:
それじゃあ俺は帰りますね
姉貴が腹空かせてるだろうし…


勇気の言葉に、左手をひらひらと振って答える友野。

その反応を確認して、勇気は家路を急いだ。

しかし、

勇気:
やべぇ…雪が強くなってきてる…


暗闇を、雪の白が覆い尽くさんばかりに横殴りに吹き付ける。

とはいえここで引き返すわけにも行かず、勇気は体勢を低くして、なだらかな上り坂を駆け上がって行った。



家の手前200メートルの防風林に守られている所からはダッシュに切り替えて、ようやく帰ってきた勇気。

勇気:
ただいま!
ゴメン、遅くなっちまった!


荒い息を抑えず、かなり大きな声で言ったはずなのに、反応は全く無い。

慌ててみてみると、玄関にあった大量の靴は全て捌けていて、優希の友達は皆帰った事を知らせていた。

勇気:
(何だ…?スゲー嫌な予感が…)


ゆっくりとリビングのドアを開けて中の様子を窺うが、誰も居ない。

それどころか、台所、ダイニング、応接間に風呂も見て回ったが人の気配が全く無かった。

もう一度玄関を見てみるが、優希の靴はちゃんとある。

勇気:
もう遅いしな…寝ちまったのか…


だがここで勇気はある事に気付く。

台所、ダイニング、応接間は優希とその友達が封鎖していただけあって何かやっていた跡があったが、風呂場を使った形跡は無い。

女の子で、ましてや風呂好きの優希が、この寒い夜に風呂にも入らずに寝る事は考えられなかった。

勇気:
まだ起きてる…2階か…?


つぶやいて、ゆっくりと階段を昇っていった。



――ガチャリ…

寝室のドアを開ける。

しかし、一切の乱れも無いベッドに開かれたカーテンと、朝のままの風景が夜の闇に包まれていた。

勇気:
ここじゃないのか…


すると、突如重たくなるドアに押し返されそうになる。

勇気:
な、なんだ何だ?!


どうにか押しとどめ、ドアの向こう側を見てみると、

勇気:
あ……姉貴……


椅子からずり落ちるような姿勢でドアにもたれ掛かる優希の姿があった。

勇気:
ったく、相変わらずこんな所で…
あーあ~、こんなに冷えちまって…


華奢な身体を抱きかかえると、力の抜けた手から小箱が「コトン」と落ちる。

丁寧にラッピングされているそれを拾い上げると、優希と一緒にベッドへと運んだ。

勇気:
とりあえずは…知らん振りだよな…


横たえて毛布を掛けた優希の枕元に小箱をそっと置いて、勇気は1階へと下りて行くのだった。



翌朝。

優希:
勇気、ゆうきぃ~
起きて、朝だよ~~


眠っているのにさらに眠くなりそうな声と共に盛大に揺さぶり攻撃を受けて、勇気は目を覚ます。

勇気:
姉貴か……ふぁぁぁぁ…ねみぃ……


大あくびをかます様子には構わず、優希は切り出した。

優希:
あのね、えっとね…


勇気:
どうした?腹減ったか?


優希:
ち、ちがうもんっ!
って、そうじゃなくてぇ…


言い澱むその表情は何やら困った顔で、頬は紅色に染まっている。

勇気:
…どうしたんだ?


勇気が本気で心配する声を上げる。

すると、何かを決心したように顔を上げて言った。

優希:
こ、これ…っ!
勇気に、あげるっ!!


小さな優希の手の上には、見覚えのある小箱が乗っていた。

ここまで来てようやく合点のいった勇気は、またまた本気で心配そうな声で尋ねる。

勇気:
俺なんかで、いいのか…?


優希は、笑顔で答えた。

優希:
だって、私が一番好きなのは、勇気だもん…


勇気:
姉貴…


優希:
病気のときも、宿題ができないときも、ご飯失敗しちゃったときも…
いつも、ドジばっかりの私を助けてくれて…
こんな時くらいしか、面と向かって「ありがとう」っていう気持ちを…表せないんだもん…


瞳に涙さえ浮かべながら言う優希に、勇気は溜め息をひとつついて言う。

勇気:
俺には姉貴しか家族がいないんだ
だから、姉貴に優しくするのは当たり前だって


優希:
で、でも…


勇気:
前にも言わなかったっけか?
んな事、姉貴が気にする事じゃないんだ


優希:
…………


すっかりしょぼくれてしまった優希の頭を撫でながら、言葉を続ける。

勇気:
まあでも、嬉しい…かな
ありがとうな、姉貴


思わず顔を上げると、そこには照れくさそうな顔でそっぽを向き、しかし手には優希から受け取った小箱を持つ勇気の姿があった。

優希:
えへへ…どういたしまして、だよぉ




その数分後。

勇気は台所で 「 _| ̄|○ 」 の格好をする事になる。

理由はもちろん、冒頭のアレである。

勇気:
今日から毎食チョコレートだゼ…うわぁ~い…


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