そこは雪の止むことのない純白の街。 ようやく辿り着いた安息の地に、無数のきらめきが舞い降りる…
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水の女神は微笑むのか?
2008-06-22 Sun 21:10
普通の街では「夏」と呼ばれる時期を迎える頃。
双子はこの街に来てから何度目かの、驚愕の事実を知る。

勇気:
はぁっ!?
プールの授業があんのか!?


女子生徒:
あったり前じゃない
夏は2回に1回ちゃんとあるわよ?


勇気:
ま、まさか常冬のトコ来てまで泳ぐ羽目になるとはな…



家に帰って来た双子の話題は、やはり水泳の授業の事だった。

優希:
ぅ~…やだなぁ~…


勇気:
俺だってやだよ…


優希:
勇気はいいよぅ
私なんかバタ足だってできないんだからぁ…


愚痴る優希だったが、彼女が泳げないのには理由がある。

時はまだ母親と暮らしていた頃まで遡る。
小学生だった優希は、学校の授業の水泳で酷い目に遭った。

体育教諭が今時珍しい熱血漢で、「気合いさえあれば何でも出来る」という観念の持ち主だったのである。
分かり易く言えばスパルタ好きなのだ。
そんな教諭が、水泳の授業でどんな事をするかは想像には難くないだろう。

危うく病院沙汰になるまで水にうずめられ、小学生の、ましてや女の子では逃れる術も無く…
かくして、優希の水泳嫌いが確立されたのである。

優希:
はぁ~…憂鬱だよぅ…


勇気:
俺はそこまで心配してないけどなぁ


優希:
勇気には、泳げない人の気持ちなんて分からないよぅ


勇気:
…ま、とりあえず風呂でも行ってこいよ
落ち着けば考えも変わるかもしれないしな


優希:
うん…




促されるまま風呂にやってきた優希は、いつものように浴槽にその身を沈める。

優希:
はぁぁ…水泳、ホントに嫌だなぁ~…


顔の半分まで湯に浸し、ため息と共に吐き出す呼気でぶくぶくと泡を立てる。

優希:
(お風呂だったら、水でも好きなのに…)


と思ったその時。

優希:
ぁ…そっかぁ!
お風呂で練習すればいいんだよねっ!


妙案を思いついた優希は、早速顔を湯に浸け…る事はさすがに出来ず、水面とにらめっこを始めるのだった。

優希:
うぅぅぅぅ…


しかめっ面の自分の顔をさらに凝視する。

優希:
むむむむむぅ~~~…


しかしいくら見つめても顔を浸けなければ練習にはならない。
だが、過去の記憶が…息も出来ず気を失った忌々しい思い出が、頑なに水に入る事を拒むのだった。

優希:
(頑張らなきゃ…頑張って泳げるようにならなきゃ…!)


思えば思うほど、身体は硬直していく。
ほんの少し、1秒でもいいから水に顔を浸ける、それだけの事が今の優希にとっては最大の試練として立ちはだかっていた。

そして、そのにらめっこは延々1時間も続けられ、結局顔を湯に浸ける事はなかったのだった。



気がつけば見慣れた天井の壁紙が見えていた。
身体はやけに軽く感じられるのに、いざ動かそうとすると強力な糊に絡めとられてしまったかのようで全く動かせない。
次に襲ってきたのは、強烈な頭痛だった。
広辞苑か百科辞典か、そんな重たいもので後頭部を叩かれてしまったような鈍痛が、心臓の鼓動によって血と一緒に流れてくるようだ。

優希:
ぅ……ぁぅ……


勇気:
ぉ、やっと気がついたか


優希:
ぇ…勇気……?


視界にただ一人の信頼できる人を見つけ腕をのばそうとするが、わずか数センチ持ち上げるのが精一杯だった。
そんな優希のふるえる腕に手を添えて、そっと下ろしながら勇気が言う。

勇気:
きついだろうからまだ寝とけ、と言いたいがな
頭痛止め飲めるか?


優希:
うん…


勇気の助けもあって何とか半身を起こした優希は、手渡された薬を飲み下す。
薬が苦手な優希は、服薬用のゼリーを使ったのだが。

そして再び寝かしつけられると、優希が尋ねた。

優希:
ねぇ…私、どうしちゃったのかなぁ…
お風呂で顔を水に浸ける練習しようとして、それから後が分からないの


すると、一瞬ギョッとしたもののすぐに何かを理解した、どちらかというと落胆の色の濃い表情に変わった勇気が、ため息混じりに答える。

勇気:
あのなぁ…
風呂でそんな事やればそりゃあのぼせもするわな…


優希:
ぇ……?


勇気:
姉貴は変なトコで頑張り屋な節があるからな、今日は頑張り過ぎたんだよ
明日俺と一緒に練習しよう、な?


勇気のその言葉が嬉しくて、

優希:
…うん


元気よくとはいかなかったが、笑顔で返す優希であった。



翌日。

風呂場には、約束通りに練習に励む双子の姿があった。

勇気:
ほらほら、顔を5秒浸けるだけだぞ~
出来ないなら、今日のおやつのスペシャルデコレーションチョコレートパフェ(勇気作)が2つとも俺のものになるぞ~


明らかな誘い文句に、

優希:
だ、だって…ひっく…だってぇ…できないんだもん…


必死を極めて、泣いてすがり始める優希であった。

勇気:
しゃーねぇなぁ…そんじゃあ、水の中で顔を洗ってみな?
もちろん、顔を上げたらダメだぞ


優希:
ぅ…うん…


自信なさげに、再び浴槽いっぱいの水と対峙する。

そして、

―――ばっしゃーーん!

派手な水飛沫を立てて、勢いよく顔を浸ける優希。
直後、本当に顔を洗い始めた。
その様子を、勇気は何も言わず眺める。

すると、息が続かなくなった優希が顔を上げた。

優希:
はぁ、はぁ…ゆ、勇気っ!
私、できたよっ!


勇気:
ん、よくやったぞ姉貴
そんじゃあ、おやつにするから顔拭いてこいな


優希:
はぁ~~い♪


よほど嬉しいのかそれとも慣れたのか、顔がびしょびしょに濡れたまま優希は満面の笑みで答えるのだった。

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