そこは雪の止むことのない純白の街。 ようやく辿り着いた安息の地に、無数のきらめきが舞い降りる…
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夢見る少女は眠りから覚め
2008-06-22 Sun 21:12
優希:
ふわぁぁ~~…


ショーウインドウの前で感嘆の声を漏らす優希に、勇気が表情を変える。

勇気:
うわっ、いきなり何なんだよ


問いかけに応じる様子は無く、熱い視線を投げ掛ける。
その瞳が映すのは、シルクの光沢がまばゆい純白のウェディングドレスだった。


優希:
はぁぁ~~…綺麗だったなぁ~~…


家に帰ってきても相変わらず呆けた顔の優希に、見兼ねた勇気が声を掛ける。

勇気:
あのなぁ…憧れるのも分かるけど俺たちまた中学生だぞ?
今からそんなんでどうするんだよ…


優希:
だって、あんなに綺麗なお洋服なんだよっ!?
女の子なら誰でも憧れちゃうよぉ~
はぁぁ~一度でいいから着てみたいなぁ…


すっかりあちらの世界に旅立ってしまっている優希を、頭を抱えながら眺めるしかない勇気であった。



その晩。

食事も済み、台所片付けをしていた勇気が唐突に言う。

勇気:
あー姉貴、今日はやる事残ってるから先に寝ててくれ


優希:
ぇ…なんで?


首を傾げる優希に、勇気は表情ひとつ変える事なく言った。

勇気:
この前台所にさ、姉貴が大っ嫌いな「黒い悪魔」が湧いててなぁ…駆除しとかないとなんだ
…姉貴も手伝うか?


途端に固まる優希。
そして次の瞬間には、ご丁寧に首と手を横に振りながら叫ぶように答えた。

優希:
ゃ…やだヤダ嫌だぁ!
ゆ、勇気ひとりでやってよぉ!

勇気:
そう言うと思ったよ


からかい半分だったらしく、笑顔で返す勇気に、

優希:
うぅ~…嫌いなの知っててそんな事言うんだもん…


涙目でつぶやく優希だった。



「黒い悪魔」の恐怖がすぐそこに迫っている…
こんな危険な状況は他にない優希は、大好きなお風呂も程々にあがってきて、駆け足で2階に逃げ込んだ。

もちろん勇気には、

優希:
た、退治が終わるまで…私、台所に行かないんだからねっ!


怯えつつも声だけは張って来たのだった。

優希:
うぅ…想像しただけでも寒気がするよぅ…


幸いにも今日は宿題が出されておらず、すぐさま布団にもぐり込んで震えているのだった。
とはいえ、暗いと心細くなるので照明は点けたままだ。

優希:
勇気…だいじょうぶかなぁ…


ふとそんな事を思う。
その思いはほんの数秒で膨れ上がり、先ほどまでの恐怖を遥かに凌ぐほどに急成長を遂げた。

次の瞬間、

優希:
お姉ちゃんが、しっかりしないと…いけないよね…


思いは、決意に変わる。



意を決して布団から跳び起き、手近にあった古新聞を筒状に丸めて握り締めた。
そして、慎重にドアを開けて廊下に出ると様子を窺うべく聞き耳をたててみた。

すると…

勇気:
ぐっ、この…なかなか手強いな、くそっ


―――ガガガガガッ

勇気:
あーーーまたやり損ねた…
ちっくしょぅ…逃げ足早ぇんだよなぁ


―――ガガガガガッ!

―――バサバサバサ、ガタンッごんっ!

勇気:
ぐぁっ!?
ってぇ~~~…あーもう厄介だなぁ…


激闘を物語る激しい物音と、勇気の悪態が2階にまで聞こえて来た。

その瞬間、

優希:
ひっ…!!


一瞬にして決意はくじけ、再び布団を耳栓にしてうずくまるのだった。



翌朝。

目覚ましのアラームに急かされて眠たそうな瞳のまま起き上がる優希。
外はいつも通りの雪らしく、弱々しい光を窓に映すのみだった。
耳を澄ませば、雪が降る音が聞こえてきそうな静かな朝だった。

そこに、

勇気:
姉貴ー、起きたか~?


いつも通りのエプロンを掛けた弟の姿があった。

優希:
勇気ぃ…おはよぉ~…


勇気:
ほら、また寝ちまう前に顔洗ってこいよ


優希:
ふぁぁぁぃ…


あくびをしながらも、どうにか洗面所までやってきた優希は、凍てつくような水に触れる。

優希:
ひゃぅっ!
つ、冷たぁ~い


一気に目が覚める。
そして、怒涛の勢いで昨日の出来事がリフレインした。

優希:
そ、そうだっ! すっかり忘れてたよぅ!


洗顔も程々に、勇気のもとに駆けていった。



優希:
勇気っ、昨日は大丈夫だったの!?


勇気:
ん? 何かあったっけか?


優希:
だ、だって…その…ゴ、ゴキ…ブ、リ…が…


おぞましい名前をどうにか言い終わる頃にはすっかり合点のいった顔をしていた勇気が、事もなげに答える。

勇気:
あー…あれか
あれは口から出まかせ


優希:
……ぇ…?


勇気:
答えは姉貴がさっきまで寝てたとこにあるよ


いまいち事情が飲み込めていない優希は、言われるままに寝室に戻って来た。

すると、

優希:
ぇ…っ?!


先ほどまで寝ていたベッドは綺麗に整えられ、その上に見覚えのある洋服。
いや、洋服というにはあまりにも豪奢なドレスがあった。

優希:
勇気…これ…どうやって…


勇気:
ひと晩で仕上げるの大変だったんだぞ
まあ、店にあるような飾りとかは無理だったけどな


優希:
ひと晩って…昨日の?


勇気:
それ以外に何時やるってンだよ


照れたように苦笑いしながら言う勇気だった。

その様子をぽかんと見ていた優希だったが、やがて唇を噛み締めて、身体は小刻みに震え…

優希:
勇気は…おバカさんだよ…


勇気:
は…?


唖然とする勇気にそっと歩み寄り、いとおしげに頬を撫でながら続ける。

優希:
こんなに…目の下にクマまで作って…大変だったでしょう?


勇気:
ま、まぁな…寝てねぇ訳だし


優希:
私、確かに憧れるって言ったけど、欲しいなんて言ってないよ
大事な弟がこんなに大変な目に遭ってまで、欲しいなんて言わないよ…


勇気:
姉貴…


優希:
作ってくれたのは嬉しいよ?
でもね……でもね、大好きな人がこんなになるのを見ていられない…


勇気の肩にしがみつくようにしてうな垂れ、声を震わせながら優希は言った。

優希:
ごめんね…私が、お姉ちゃんが…もっとしっかりしないといけないのにね…
本当に、ごめんね…




そんな優希に、

勇気:
ったく、姉貴に泣かれたら俺はどうしようもねぇだろうが…


華奢な身体を軽々と抱え上げて立ち直らせて、勇気は溜め息混じりに言った。

優希:
……ごめんね…


勇気:
それはもういいから
まあ、後で着れるか試してみな


そう言うと、優希をベッドに腰掛けさせた。

勇気:
そんじゃ、落ち着いたら下に来いよ
早くしないとメシが冷めるからな


優希:
……うん


返事を聞いて勇気は部屋を後にした。



扉が閉まり、階下に下りていく足音が聞こえなくなる頃、優希はようやく立ち上がった。

そして、ベッドの上に鎮座するドレスを見る。
前面だけを見れば、店頭のディスプレイにも劣らないほどの装飾が再現されていて、思わず溜め息が漏れそうなほど綺麗だった。
しかし裏返して背面を見たとき…

優希:
え…


装飾の類は最小限に抑えられ、どこまでも着易いよう工夫された構造になっていた。

加えて、

優希:
かなり…大きめ、かな…?


肩口からあわせてみると、丈が長い。
背伸びをしてもまだスカートの裾が床に付いてしまう。

いろいろアングルを試すべく少し振ると、メモ書きが腰のギャザー部分からこぼれ落ちた。
拾い上げて読んでみると、そこにはこう書かれていた。

-姉貴へ
 まだ姉貴には早いから、将来着れるサイズになってる
 それを着るべき相手が現れたら、改めて着てみてくれ
 その頃にはオレもそんなヤツが居れば良いが…

優希:
……っ!!


もう、感情の波を防ぐ事は出来なかった。

優希:
ありがとうね…ありがとうね……


優希の心の中には、ただ感謝する気持ちにあふれていた。

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